羅生門(二の一)
「七日の間腕を預けておくぞ。」
こういい残した鬼の言葉を綱は忘れずにいました。 それで万一取り返されない用心に、綱は腕を丈夫な箱の中に入れて、門の外に、
「ものいみ」
と書いて張り出して、ぴったり門を閉めて、お経をよんでいました。
六日の間は何事もありませんでした。 七日めの夕方にことことと門をたたくものがありました。 綱の家来が門のすきまからのぞいてみますと、白髪のおばあさんが、杖をついて、笠をもって、門の外に立っていました。 家来が、「あなたはどなたです。」と聞きますと、おばあさんは、「綱のおばが、摂津の国渡辺からわざわざたずねて来ました。」といいました。
家来は 気の毒そうに、「それはあいにくでございました。主人はものいみでございまして、今晩一晩立つまでは、どなたにもお会いになりません。」といいました。
するとおばあさんは悲しそうな声で、「綱は小さい時母に別れたので、母親の代わりにわたしがあの子を育ててやったのです。それが今はえらい侍になったといって、せっかく遠方からたずねて来ても会ってはくれない。このごろはめっきり年をとって、こんどまた会おうといっても、それまで生きていられるかおぼつかない。ああ、ざんねんなことだ。」といいながら、とぼとぼ帰って行こうとしました。
綱は奥でおばさんのいうことをすっかり聞いていました。 聞いているうちに気の毒になって、どうしても門を開けてやらずにはいられないような気がしました。 それで自分が出て行って、門を開けてやって、
「よくいらっしゃいました。」
といって、奥へ通しました。
