渡り鳥の旅(二)
二日目の夜、雨が来た。
海の上は真っ暗で、下にも上にも光が一つもない。 風が横から強く吹いて、体が押される。 羽を動かすたびに、水を含んだ羽が重くなる。
若いガンは、少しずつ列から離れていった。 前の仲間の姿が見えなくなる。 声を出しても、風の音のほうが大きい。 もう飛べないと思って、体が下がり始めた。
そのとき、右の後ろから声が聞こえた。 リーダーだった。
「私の後ろに入れ」
若いガンはやっとの思いで、リーダーの右斜め後ろに入った。 すると、不思議なことが起こった。 同じように羽を動かしているのに、体が軽い。 前のガンの羽が作った風が、下から体を持ち上げているのだ。
列の力とはこれだったのか、と若いガンは思った。 一番後ろで聞いていたあの音は、みんなが次の一羽のために作っている風の音だった。
朝、雨がやんだ。 雲の下に、細い黒い線が見えた。 陸だ。 群れの中から、短い声がいくつも上がった。
若いガンも鳴いた。 その声はまだ、大人のガンより高かった。
