渡り鳥の旅(一)
九月の終わり、北の湖の朝の水は、足が痛くなるほど冷たくなった。
若いガンは、今年の夏この湖で生まれた。 毎日、草の根を食べて、羽を伸ばして、水の上を走る練習をしてきた。 しかしこの数日、群れの様子が変わった。 年上のガンたちが、朝から南の空ばかり見ている。
「風が変わった」と群れのリーダーが言った。 「三日以内に出る」
若いガンには、南がどんな所か分からない。 一日か二日で着くのだろうか。 そう聞くと、リーダーは短く答えた。
「海の上を、夜も飛ぶ。休む所はない」
出発の朝、湖には霧が出ていた。 何百羽ものガンが一度に水をけって、空へ上がる。 若いガンも、初めて群れの中で飛んだ。 下を見ると、生まれた湖がもう小さい。 首を伸ばして、もう一度だけ見た。
前を飛ぶ仲間の羽の音が、ずっと聞こえている。 若いガンは列の一番後ろにいた。 まだ、その音の意味を知らなかった。
