赤い船(三の一)
露子は、おりおり、自分が船に乗って外国へいったような夢を見ました。 そして、外国でオルガンを習ったり、ピアノを聞いたりして、たいそう自分が音楽が上手になって、人々からほめられたような夢を見ておおいに喜ぶと、夢がさめて驚いたことがありました。
初夏のある日のこと、露子は、お姉さまといっしょに海辺へ遊びにまいりました。 その日は風もなく、波も穏やかな日であったから、沖のかなたはかすんで、はるばると地平線が茫然と夢のようになって見えました。 白い雲が浮かんでいるのが、島影のようにも、飛んでいる鳥影のようにも見えたのであります。
お姉さまは、いい声でうたいながら、露子の手をとってお歩きになりますと、露子も、きれいな砂を踏んで波打ちぎわを歩きました。 波は、かわいらしい声をたてて笑った。 このとき、沖のはるかに、赤い筋の入った一そうの大きな汽船が、波を上げて通り過ぎるのが見えました。
露子は、ふと、この汽船は遠くの遠くへいくのではないかと思って見ていますと、お姉さまも、またじっとその船をごらんになりました。
「お姉さま、この海はなんという海なのでしょう。」 と聞くと、「この海が太平洋というのですよ。」とお教えくださいましたので、この海をどこまでもいけば外国へいかれるのだろうと思いました。
