赤い実(一)
だんだん寒くなるので、義雄さんのお母さんは精を出して、お仕事をなさっていました。
「きょうのうちに、綿をいれてしまいたいものだ。」と、ひとりごとをしながら、針を持つ手を動かしていられました。
秋も深くなって、日脚は短くなりました。 かれこれするうちに、はや、晩方となりますので、あちらで、豆腐屋のらっぱの音がきこえると、お母さんの心は、ますますせいたのでありました。
ちくちくと、縫っていられますうちに、糸が短くなって糸の先が、針孔からぬけてしまったのです。 お母さんは、新しい糸の先を指で細くして針の孔にとおそうとなさいました。 けれど、うまいぐあいに、糸は孔にとおらなかったのです。
お母さんは、気をおもみになりました。 そして、明るい方を向いて、針の小さな孔をすかすようにして、糸の先をいれようとしましたが、やはりうまくいきませんでした。
「義雄さん。」と、お母さんはたまりかねて、隣のへやで、勉強をしていた義雄さんをお呼びになりました。
