白い波が消えたら
港の待合室の窓が、風でがたがた鳴っていた。 掲示板には「十時の便、欠航」と赤い字が出ている。 リサはリュックの横に座って、三十分前からその字を見ていた。
「今日はもう無理だね」
顔を上げると、青い制服の男の人が立っていた。 この船の船長だった。
「波、そんなに高いんですか」とリサが聞いた。
「今、四メートル。うちの船は二メートルまでだ。無理して出したら、みんな海の上で気持ち悪くなる。けがをする人が出るかもしれない」
リサはリュックから国際運転免許証を出して見せた。 「明日、島でバイクを借りるつもりなんです。今日じゃないと、時間が…」
船長は免許証を見て、少し笑った。 「島には信号が一つもないよ。そんなに急がなくていい。明日の朝は波が下がるだろうから、六時の便に切符を変えておきなさい」
「今晩は、どこに泊まればいいですか」
「港の前の食堂のおばさんに、もう電話しておいた。二階が空いてるって」
リサは目を大きくした。 「どうして、私のことを…」
「朝からここに座っている客は、あんた一人だからね」と船長は言って、外の海を指した。 「あの白い波が消えたら、船は出る。簡単だよ」
