浦島太郎(一の二)
遠い沖のほうまでもこぎ出して、一生けんめいおさかなをつっていますと、ふとうしろのほうで
「浦島さん、浦島さん」とよぶ声がしました。
おやとおもってふりかえってみますと、だれも人のかげは見えません。 その代り、いつのまにか、一ぴきのかめが、舟のそばにきていました。
浦島がふしぎそうな顔をしていると、
「わたくしは、先日助けていただいたかめでございます。きょうはちょっとそのお礼にまいりました」
かめがこういったので、浦島はびっくりしました。
「まあ、そうかい。わざわざ礼なんぞいいにくるにはおよばないのに」
「でも、ほんとうにありがとうございました。ときに、浦島さん、あなたはりゅう宮をごらんになったことがありますか」
「いや、話にはきいているが、まだ見たことはないよ」
「ではほんのお礼のしるしに、わたくしがりゅう宮を見せて上げたいとおもいますがいかがでしょう」
「へえ、それはおもしろいね。ぜひ行ってみたいが、それはなんでも海の底にあるということではないか。どうして行くつもりだね。わたしにはとてもそこまでおよいでは行けないよ」
「なに、わけはございません。わたくしの背中におのりください」
かめはこういって、背中を出しました。 浦島は半分きみわるくおもいながら、いわれるままに、かめの背中にのりました。
かめはすぐに白い波を切って、ずんずんおよいで行きました。 ざあざあいう波の音がだんだん遠くなって、青い青い水の底へ、ただもう夢のようにはこばれて行きますと、ふと、そこらがかっとあかるくなって、白玉のようにきれいな砂の道がつづいて、むこうにりっぱな門が見えました。 その奥にきらきら光って、目のくらむような金銀のいらかが、たかくそびえていました。
「さあ、りゅう宮へまいりました」
かめはこういって、浦島を背中からおろして、
「しばらくお待ちください」
といったまま、門のなかへはいって行きました。
