五階に森が二人
あすか:もしもし、五〇二の森ですけど。夜遅くにすみません。
しょうた:あ、はい、五〇三の森です。どうかしました?
あすか:あの、今日、荷物が届くはずだったんですけど、うちに来てなくて。アプリを見たら、もう「お届け済み」になってるんです。
しょうた:えっ。うち、今日、一つ受け取りましたよ。薄い、本みたいなやつ。
あすか:たぶん、それです。
しょうた:あー……。伝票の名前が森だったから、自分のだと思っちゃって。
あすか:あの、開けました?
しょうた:……開けました。すみません。中身、料理の本でしたよね。
あすか:はい。えびの写真が表紙の。
しょうた:それです。正直、こんな本を注文した覚えはないなと思ったんですよ。でも、寝る前にスマホでいろいろ買っちゃうことがあるので、たぶん自分だろうと。
あすか:あ、それ、私も分かります。朝起きたら、覚えてない物が届いてることあります。
しょうた:ですよね。配達の人も、名字しか見てなかったんでしょうね。部屋番号は、ちゃんと書いてあったのに。
あすか:一回、前にもあったんです。あのときは、うちに知らない人の靴が届きました。
しょうた:靴。それは困りますね。……とにかく、これはお宅の本です。今から持っていってもいいですか。
あすか:えっ、いえ、明日で大丈夫です。
しょうた:いえ、今持っていきます。一番いいのは、今日のうちに返すことなので。
あすか:じゃあ、すみません。ドアの前に置いておいてもらえたら。
しょうた:分かりました。
(少しして、インターホンが鳴る)
あすか:ありがとうございます。……あ、袋、開いてますね。
しょうた:そこは、きれいに開けたつもりです。
あすか:はい、上手です。
しょうた:引っ越してきたときに連絡先を交換しておいてよかったですね。こういうときのためだったんですね。
あすか:本当ですね。
しょうた:この階、森が二人いるって、配達の人に言っておいたほうがいいかもしれません。
あすか:ですね。……三人じゃなくてよかったです。
