木曜日の二十三軒
木曜日の夕方、苅田はあけぼの商店街の南の入口から歩き始めた。 アーケードのある古い商店街で、端から端までおよそ二百メートル。 この街に越して三年になる。 彼女はこの道を、毎週一回、同じ向きに歩く。
数え始めたのは三月からだ。 駅の向こうの郊外に大きな店ができて、近所の人から、ここはもう終わりだと何度も言われた。 いわゆるシャッター街になる、と。 苅田はそれを聞いて、では今、何軒開いているのか、と思っただけだった。
規則は一つ。 シャッターが上がっていれば、数える。
一軒目は豆腐屋。 夕方には売り切れていて、店の奥で水の音がしていた。 二軒目、靴の修理屋。 木曜だけ開く店だが、どうにか続いている。 三軒目の花屋は、歩道にバケツを並べたスタンドを出していた。 四軒目、パン屋。 クリームのたっぷり入ったパンを、苅田は数え終わったあとのごほうびに買うことにしている。
閉まっている店も覚えている。 布団屋のシャッターは春から下りたままだ。 その隣の、本屋だった場所は、去年コインランドリーに変わった。 洗濯機の音が、アーケードの下でよく響く。
アーケードの切れ目から、駅前のビルの上のほうが見えた。 都会の駅ビルのような明るさは、ここにはない。
「苅田さん、おかげさまで、今日は早く売れましたよ」と豆腐屋の奥さんが声をかけた。
苅田は会釈をして、また数え始めた。 制服のグループが自転車を押して通り過ぎ、数がずれそうになる。 十七、十八。
北の端の広場に着いて、苅田は自分の指を見た。 二十三。 二十二のはずだった。 数え間違えたと思って、来た道を戻った。
増えていたのは、角の一軒だった。 三年間ずっと下りていたシャッターが、今日は上まで上がっている。 中では若い男が床を洗っていて、まだ商売はしていない。 歩道に、氷の入ったバケツが一つ出ている。
苅田は少し考えて、規則を変えないことにした。 二十三。 三月から数えて、増えたのは初めてだった。
