二十四年走っている男
羽鳥:どうぞ。かばんは後ろのシートへ。
粕谷:もう十五分、動いてないよ、この渋滞。次の交差点を右。橋を渡ってください。
羽鳥:橋ですか。今日はやめましょう。ガソリンスタンドの先の通りから回ります。
粕谷:あんな細い道路、遠回りだろう。七時のコンサートなんだ。遅れたら、このスーツで走ることになる。
羽鳥:遠回りでもかまいませんか。そのほうが早く着きます。
粕谷:かまうよ。僕はこの辺で生まれ育ってるんだ。夕方は橋。
羽鳥:私は二十四年、この辺を走っています。
粕谷:じゃあ、二十四年前は橋が早かったんだ。
羽鳥:お客さん、あのオートバイ。さっき前へ行ったのに、戻ってきましたよ。
(交差点の真ん中で、警官が車を右へ回していた。)
羽鳥:通りのほうは工事のようですね。今日は右しかありません。
粕谷:ほら。僕の言った通りだ。
羽鳥:お客さんのおっしゃった通りになりました。ただ、理由が違います。
粕谷:あ、橋、空いてる。
羽鳥:詰まっていたのは交差点だけです。抜けたお陰で、ここからは十分です。
(六時三十五分、車が止まった。)
粕谷:はい、これで。おつりはいいよ。
羽鳥:ありがとうございます。工事のない日に、また。私の道をお見せします。
