赤い実(四)
「お母さん、きっと、惜しくてたべなかったんですよ。」
「ああ、そうかもしれません。」
美しい、赤い実を掌の上にのせて、ながめていた義雄さんは、なんの実だろうかと思いました。
「お母さん、木の実でしょうか、草の実でしょうか?」と、ききました。
「やぶの中に生えている、なにかの木の実のようですね。」
「これを土にうずめておくと、芽が出るでしょうか。」と、義雄さんは、たずねました。
「ええ、出ますとも、みんな草や、木の実は下に落ちてそこだけに、芽を出すものではありません。こうして、鳥にたべられて、その鳥が、遠方に飛んでいって、ふんをすると種子が、その中にはいっていて、芽を出すこともあるのです。そして、その芽が大きく伸びて、一本の木となった時分には、その木の親木は、もう、枯れていることもあります。またじょうぶでいることもあります。そんなことが、たび重なるにつれて、その木の子や、孫が地面上に殖えていって繁栄するのです。」と、お母さんは、おっしゃいました。
