松山鏡(三の二)
と声をかけました。 娘はびっくりして、思わずふるえました。 そして真っ赤な顔をしながら、あわてて鏡をかくしました。 おとうさんはふきげんな顔をして、
「何だ、かくしたものは。出してお見せ。」
といいました。
娘は困ったような顔をして、こわごわ鏡を出しました。 おとうさんはそれを見て、
「何だ。これはいつか死んだおかあさんにわたしの買ってやった鏡じゃないか。どうしてこんなものをながめているのだ。」
といいました。
すると娘は、こうしておかあさんにお目にかかっているのだといいました。 そしておかあさんは死んでも、やはりこの鏡の中にいらしって、いつでも会いたい時には、これを見れば会えるといって、この鏡をおかあさんが下さったのだと話しました。 おとうさんはいよいよふしぎに思って、
「どれ、お見せ。」
といいながら、娘のうしろからのぞきますと、そこには若い時のおかあさんそっくりの娘の顔がうつりました。
「ああ、それはお前の姿だよ。お前は小さい時からおかあさんによく似ていたから、おかあさんはちっとでもお前の心を慰めるために、そうおっしゃったのだ。お前は自分の姿をおかあさんだと思って、これまでながめてよろこんでいたのだよ。」 こうおとうさんはいいながら、しおらしい娘の心がかわいそうになりました。
するとその時まで次の間で様子を見ていた、こんどのおかあさんが入って来て、娘の手を固く握りしめながら、
「これですっかり分かりました。何というやさしい心でしょう。それを疑ったのはすまなかった。」
といいながら、涙をこぼしました。 娘はうつむきながら、小声で、
「おとうさんにも、おかあさんにも、よけいな御心配をかけてすみませんでした。」
といいました。
