神社の後ろの森
秋の朝、山あいの小さい神社に外国人の旅行者が一人来た。 旅行者は写真を撮りながら、本殿の後ろの森を見ていた。 木が高く、下には草や落ち葉が多く、手入れがされていないように見える。
「あの森は、どうしてそのままにしてあるんですか」と旅行者が聞いた。
掃除をしていた宮司さんが、ほうきを止めて笑った。
「そのままに見えますか。あれでも毎年、少しずつ手を入れているんですよ」
「木を切るんですか」
「ええ。太くなりすぎた木は切って、まきにします。切ると下まで日が届いて、小さい木や草が育ちます。すると虫が来て、鳥も来ます」
旅行者は森から聞こえる鳥の声を聞いた。 名前は分からないが、何種類もいる。
「では、自然のままの森ではないんですね」
「日本の田舎の自然は、ほとんどそうです」と宮司さんは言った。 「山と田んぼの間の、人が使いながら守ってきた場所を里山と呼びます。この言葉は名古屋の国際会議で紹介されてから、外国でも知られるようになりました」
「じゃあ、この鳥たちは、ずっとここにいるんですか」
「ええ。毎年春になると、同じ鳥が同じ木に戻ってきます。あの一番高い木です。私が子どものころからあそこにいますから、あの木だけは切りません」
宮司さんはそう言って、また掃除を始めた。
