火が決める
(備前の窯場。朝六時。) おやじさん:おい。割木、そっちに積んでおけ。
弟子:はい、承知いたしました。どちらのほうに積ませていただきましょうか。
おやじさん:長い。
弟子:……はい。
おやじさん:赤松だけだ。ほかの木は混ぜるな。
弟子:あの、一つ質問してもよろしいでしょうか。この器には、どんな釉薬をかけるのでしょうか。
おやじさん:かけん。
弟子:え。では、絵は。
おやじさん:描かん。
弟子:色は。
おやじさん:つけん。
弟子:……あの、それでは、この模様はどこから出るのでしょうか。
おやじさん:火だ。松の灰が飛んで、器にかかる。それが溶けて模様になる。窯の中のどこに置くかで、全部変わる。
弟子:この赤い線のようなものも、ですか。
おやじさん:わらを巻いておくと、そこだけ赤くなる。それだけだ。
弟子:勉強になります。ところで、火はいつまで見ていればよろしいでしょうか。
おやじさん:十日間、落とすな。夜も交代で薪を入れる。俺が寝てる間はお前だ。
弟子:十日も、ですか。ゆうべ火を入れたばかりですよね。
おやじさん:千年そうしてる。備前は千年、釉薬も使わん、絵も描かん、ただ焼くだけだ。
弟子:……あの、正直に申し上げます。それでは私は、何もしていないことになりませんか。
おやじさん:なる。
弟子:え。
おやじさん:俺もだ。
(おやじさんが棚から徳利を一つ取って、弟子に持たせる。前の窯出しのものだ。)
おやじさん:見てみろ。この胡麻みたいな色、俺が出したんじゃない。窯が出した。俺は十日、薪を入れただけだ。
弟子:……きれいですね。
おやじさん:だから薪を積んでおけって言ってるんだ。早くしろ。
