七十年前の花粉
二月の終わりになると、天気予報の画面に、気温と一緒に小さな地図が出るようになる。 色が濃いところほど、その日に飛ぶ花粉が多い。 日本の春が始まる合図の一つである。
日本人の三人に一人ほどが花粉症だと言われている。 主な症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、それから目のかゆみだ。 風邪とよく似ているが、熱がほとんど出ないこと、そして何週間も続くことが違う。
いちばん多いのはスギの花粉である。 戦争のあと、家を建てる木が足りなくなり、日本中の山にスギが植えられた。 その木が今、ちょうどたくさんの花粉を飛ばす年齢になっている。 つまり、毎年春に電車の中で聞こえるくしゃみは、七十年前の植林と関係しているわけだ。
スギが終わる四月ごろからはヒノキ、夏は草の花粉、秋はブタクサと続く。 一年のうち、何も飛ばない月は意外に少ない。
対策は、地味なものばかりだ。 外ではマスクとめがねをする。 家に入る前に、玄関で服をはたく。 洗濯物と布団は外に干さない。 窓を開ける時間を短くする。 春の電車では、鼻をかみながら仕事のメールを打っている人を毎日見かける。
そして、医者がすすめるのは「初期療法」である。 花粉が飛び始めるころ、まだ症状が出ていないうちに薬を飲み始めると、その年の春全体がずいぶん楽になる。 今年は平気なようだと思っているところに、最初のひどい一日はやってくる。 その一日を待たずに始めることが、いちばんの対策なのである。
