向いていない人は
(夜八時。給湯室のとなりの休憩スペース。自動販売機の音だけがしている。)
直子:山本先輩、まだ帰らないんですか。
山本:うん、あと少しだけ。直子さんこそ、こんな時間まで何してるの。
直子:あの……ちょっと、ご相談させていただきたいことがありまして。
山本:かたいなあ。お茶でも買ってきなよ、おごるから。
直子:ありがとうございます。……実は私、この仕事に向いていないかもしれないと思っていて。
山本:ほう。三か月でそこまで分かったの。
直子:先週の資料、三回も直されたんです。しかも、同じところを。
山本:うん、見てた。
直子:やっぱり見てましたか。
山本:あの資料ね、必要な情報は全部入ってたよ。ただ、読む人が誰かを考えてなかっただけ。
直子:読む人、ですか。
山本:部長は数字しか見ない人だから、一枚目に数字を大きく置けば、それで終わる。私も一年目に同じことで怒られた。
直子:先輩でもですか。
山本:私の一年目のほうがひどいよ。十回直された資料もある。
直子:十回……。
山本:向いてるかどうかは、三か月じゃ分からない。でも、改善できるかどうかなら、もう分かってる。
直子:どうしてですか。
山本:向いていない人は、夜八時に先輩をつかまえて相談したりしないから。
直子:……アドバイス、ありがとうございます。
山本:アドバイスっていうか、ただの昔話ね。参考になれば。
直子:明日、資料の一枚目、作り直させていただきます。
山本:うん。直したら、部長より先に私に見せて。私のほうが厳しいけど。
