美術だけが上がった
通知表は、封筒に入ったまま台所のテーブルに置いてあった。 そうしは制服のまま、冷房の下でお茶を飲んでいる。
「見るぞ」と柴田は言って、そうしの側に座った。
「どうぞ」
数学は下がっていた。 国語は前と同じ。 社会と理科も少し下がっている。 体育と音楽は変わらない。 そうしは何も言わない。
「数学、大変だったな」
「先生の話が速いんだ」
最後の科目まで来て、柴田は顔を上げた。 美術が二つも上がっている。 一年生の時からずっと一番下だった科目だ。
「すごいな。美術、何かしたのか」
そうしは湯呑みを置いた。 「学校で兎を飼ってるだろ。あれを描いたんだ。動くから、写すみたいにはできなくて。ずっと見てないと描けない」
「それで、最近帰りが遅かったのか」
「うん」
柴田は、先週そうしを叱ったことを思い出した。 遅くなるなら電話しろ、と大きな声で言った。 妻には、どこかに寄って遊んでいるんだろうと話していた。
「これからは、遅くなる日は先に言え」と柴田は言った。 「言えば、何時までいてもいい」
そうしは「うん」とだけ言って、湯呑みを流しに持っていった。 それから振り返って、「今度、あの絵、持って帰るよ」と言った。
