もう一局
中野の高校の将棋部には、部員が六人しかいない。 放課後の部室は、暖房の音と駒の音だけになる。 修二と圭吾は、窓際の盤を挟んで向かい合った。
「そろそろ本気でやろうぜ。負けたほうが缶コーヒーをおごる」と修二が言った。
圭吾は自信ありげに駒を並べ始めた。 「いいよ。先に言っておくけど、あとで泣くなよ」
三十分後、泣きそうな顔をしていたのは圭吾のほうだった。 王将は盤の隅に追い込まれて、逃げ場がない。 圭吾は五分も考えて、それから小さく頭を下げた。 「負けました」
圭吾は財布を開けて、がっかりした顔をつくった。 「悪い、五千円札しかないんだ。ここの自販機、千円札までしか使えないだろ」
「駅前のコンビニで崩してくればいいよ」と修二は言った。
「遠いって。……それより、もう一局どうだ。俺が勝ったら、おごりの話はナシで」
修二は何も言わずに駒を戻した。 二局目は、十五分で終わった。 暖房が暑すぎたせいだ、と圭吾は言った。
「いまさらだけど、賭けはやっぱりナシにしないか」と圭吾が言いかけた。
修二は圭吾の手から五千円札を受け取って、コンビニのほうへ歩き出した。 「二本でいいよな。おつりは、次の一局の分にしておくよ」
