毎週一本のソース
大学二年生の時、わたしは中野駅の近くにある輸入食品の店でアルバイトをしていた。
毎週木曜日の夕方、白い髪のおばあさんが来た。 買うのはいつも同じ、イギリスの茶色いソースを一本だけだった。
おばあさんは、いつも熱心に質問した。
「これは、何にかけるの?」
わたしはそのソースを食べたことがなかったので、答えられなかった。 調べて、次の週に「卵やソーセージにかけるそうです」と言うと、おばあさんはノートに書いた。
質問は毎週一つずつあった。 「ご飯にもかけられる?」 「辛い?」 「一本で何回ぐらい使えるの?」
わたしも一本買って、食べてみた。 だんだん、答えられるようになった。
でも、一つだけわからないことがあった。
「もう、なくなっちゃったのよ。」おばあさんは毎週そう言って笑った。 小さくてやせた人なのに、一週間に一本だ。
ある木曜日、おばあさんは背の高い男の子と一緒に来た。 男の子はまっすぐソースの棚へ行って、一本取った。 それから少し考えて、もう一本取った。
「この子、うちにホームステイしているの。イギリスから来たのよ。日本語はまだあまりわからないけど、何にでもこれをかけるの。ご飯にも、焼き魚にも。」
わたしは、やっとわかった。 一週間に一本のソースも、あの熱心な質問も、全部この子のためだったのだ。
レジの上に、茶色い瓶が二本並んだ。
