まだまだ
日本の職人の世界には、昔から「弟子入り」という習慣がある。 畳屋、看板屋、船大工。 仕事は違っても、始まり方はよく似ている。
若い弟子はまず、親方の家に住んで、掃除から始める。 道具を洗い、床を拭き、材料を運ぶ。 一年目は、物を作らせてもらえないことも多い。 分からないことがあっても、細かくは教えてもらえない。 親方の手を見て、自分で覚えなければならない。
この時間を「修行」と呼ぶ。 三年、五年、十年と続くこともある。
修行の間、弟子が褒められることはほとんどない。 作った物を見せると、親方は「まだまだだ」と言う。 次の年も、その次の年も「まだまだ」。 その言葉を何百回も聞く。 そして、ある日、親方が何も言わずに、弟子の作った物をお客さんに渡す。 それが合格の印だ。
今は、専門学校で技術を習うこともできるようになった。 三年で基本が学べるし、給料の心配もない。 それでも、弟子入りを選ぶ若い人がいる。
弟子入りで学ぶことは、技術だけではないからだ。 木の選び方、天気の読み方、お客さんとの話し方。 そして、急がないという考え方。 それは、教室では習えないものだ。
「まだまだ」と言われ続けた人だけが、いつか自分の弟子に同じ言葉を言うようになる。 それが、この伝統の続き方だ。
