書けない味噌汁
(妻が出張で三日いない。 洋介は台所に立って、鍋に水を入れた。)
洋介:味噌汁ぐらい、簡単だよ。
美羽:お父さん、作れるの?
洋介:大抵のことは、見てれば分かる。二十年見てるんだから。
美羽:お父さん、それ、沸かしすぎじゃない?もう十分ぐらい沸いてるよ。
洋介:長く沸かした方が、味が濃くなるんだよ。
美羽:そうなの?
洋介:そうだよ。味噌も量らなくていい。目で見れば分かる。
(洋介は大きな匙で味噌を二回、それから、もう一回入れた。)
美羽:適当すぎない?
洋介:料理は感覚だ。
(美羽はお椀を持って、一口飲んだ。)
美羽:……変な味。
洋介:変じゃない。
美羽:まずくはないよ。でも、随分しょっぱい。
洋介:だろう?しょっぱくしたんだ。
美羽:わざと?
洋介:もちろん、わざとだよ。
美羽:ねえ、作り方、書いといて。お母さんが帰ってきたら、また作ろう。
洋介:……えっと。
美羽:お父さん。
洋介:何をどれぐらい入れたか、覚えてないんだ。全部、適当だったから。
美羽:じゃあ、この味噌汁、今日で終わりだね。
洋介:……もう一杯、飲むか。
美羽:うん。飲む。
