部屋でも庭でもない
そのこの家は、六十年前に建てられた木の家だ。 庭に面したところに、細長い板の間がある。 縁側という。
縁側は、部屋でも庭でもない。 ガラス戸を開けると、外の空気がそのまま入ってくる。 閉めれば、冬でも日が当たって暖かい。 夏は、風が家の中を通っていく。 屋根が長く出ているので、雨の日でも座っていられる。
朝、そのこはここでお茶を飲む。 十時ごろ、隣の家の人が庭の方から来て、玄関を通らずに縁側に腰かける。 靴を脱がなくていいから、五分だけ話して帰る人も多い。 野菜をもらったり、町の話を聞いたりするのは、たいていこの場所だ。
夏は、孫たちが来て、ここで宿題をする。 すいかを食べて、種を庭に飛ばす。 夜は、蚊取り線香をつけて、花火をする。 去年の夏は、いちばん下の孫が縁側で昼寝をして、そのまま夕方まで起きなかった。
部屋でも庭でもないこの場所で、そのこの一日のほとんどが過ぎていく。
