黒猫を探して(一)
土曜日の朝、ゆいが目を開けると、ベッドの上に黒い猫がいなかった。 いつもは足の上で寝ている。 でも、今日はいない。
ゆいは小さい声で猫を呼んだ。 返事はなかった。
ゆいはベッドの下を見た。 いすの下も見た。 お風呂も、台所も見た。 黒い猫はどこにもいなかった。
ゆいは弟の部屋のドアを開けた。 「けん、猫、知らない?」
けんはまだ布団の中にいた。 「知らないよ。……あ」
けんは起きて、台所へ行った。 窓が少し開いていた。 「昨日の夜、暑かったから」とけんが小さい声で言った。
二人は急いで靴を履いて、外に出た。
家の前の道を、西へ歩いた。 コンビニの前を見た。 駐車場の車の下も見た。 でも、黒い猫はいなかった。
「車、多いね」とゆいが言った。
けんは何も言わなかった。
家の前を掃除しているおばあさんがいた。 ゆいは近くへ行った。 「すみません、黒い猫を見ませんでしたか」
「うーん、見なかったねえ」とおばあさんが言った。
道の終わりに、神社の階段があった。 二人は長い階段を上った。 上まで上ると、二人とも足が痛くなった。 けんは一番上に座った。
上から町が見えた。 家も、コンビニも、駅も見えた。 それから、緑の公園も見えた。
けんが立って、公園の方を指さした。 「ゆい、あそこ、まだ見てないよ」
