港のクロ
クロは、西の島の港の待合室に住んでいる黒い猫だ。
朝の九時四十分になると、船の音が聞こえてくる。 クロはその音を覚えていて、音がすると切符売り場の窓の下から出てくる。
待合室には木の椅子が六つ並んでいる。 クロの場所は、いつも右の端だ。
月曜日の船で、青いリュックの男の人が来る。 島の診療所で働いている人らしい。 男の人はいつも右の端に座って、リュックからちくわを出し、半分をクロにくれる。
金曜日になると、その人は同じリュックを持って、帰りの船に乗る。 クロは、いつからか、金曜日だけ改札の所まで歩くようになった。 船が出るまで、そこに座って待っている。
ある月曜日、男の人は船から降りてこなかった。 火曜日も水曜日も来なかった。 もう来ないのかもしれない。 クロは椅子の上で丸くなっていた。
月曜日の朝、九時四十分の船から、青いリュックが降りてきた。 でも、いつもより荷物が多い。 大きいかばんが二つある。
男の人は待合室に入って、右の端に座った。 そして、ちくわを半分クロにくれた。
次の金曜日、クロは改札の所で待っていた。 船の時間になっても、男の人は来なかった。
待合室に戻ると、男の人は椅子に座って、窓の外の船を見ていた。
船はゆっくり港を出ていった。 その日から、クロは金曜日に見送りをしなくてもよくなった。
