一日忘れたばかりに
祖父は毎朝、血圧の薬を飲むことになっている。 台所の窓のそばに小さなケースがあり、月曜日から日曜日まで、一週間分がきれいに並んでいる。
木曜日、祖父はそのケースを開けなかった。 朝から畑に出て、倒れたトマトの支柱を直しているうちに、昼になってしまったのだ。 夕方になっても、体はどこも悪くない。 一日ぐらい平気だろう、と祖父は思った。
金曜日も、土曜日も、ケースはそのままだった。
日曜日の朝、孫の健太が自転車で寄ると、玄関の鍵が開いたまま、祖父はまだ布団の中にいた。 顔が赤い。 額に手を当てると、はっきり熱があった。 頭が重い、と祖父は小さな声で言った。
「じいちゃん、薬は」
健太が台所のケースを開けると、木曜日から日曜日まで、四日分がそのまま残っていた。
病院で調べてもらうと、風邪のほかに、血圧の数値の話をされた。 三日飲み忘れたばかりに、めまいや頭痛といった症状まで出て、悪化していたらしい。
「まさか、たった三日でな」と祖父は帰りの車の中で言った。
次の土曜日、健太は百円ショップで大きなカレンダーを買ってきて、台所の壁に貼った。 薬を飲んだ日に、赤いペンで丸をつける。 約束はそれだけだ。
「毎晩八時に電話するから、丸をつけたかどうか教えて」と健太は言った。
祖父は少し笑って、「一日忘れたばかりに、孫に見張られるようになったな」と言った。
それでもその夜から、祖父は八時の十分前になると、電話のそばに座るようになった。 薬の話は三十秒で終わる。 残りの時間は、たいてい畑のトマトの話だ。
