じいちゃんの長靴
ゆうたは東京に住む中学一年生だ。 五月の連休に、新潟のじいちゃんの家へ来た。
じいちゃんの田んぼは、山の斜面に階段のように並んでいる。 棚田というそうだ。 一枚一枚が小さくて、機械が入れない所もある。 水に空と山が映って、鏡が並んでいるように見えた。
「これ、はいてみろ」と言って、じいちゃんが緑の長靴を出した。 ゆうたの足には大きすぎて、歩くと中で足が泳ぐ。
田んぼに入ると、泥は思ったより深かった。 じいちゃんは苗を三本ずつ持って、後ろに下がりながら植えていく。
「まっすぐ植えれば、後で草を取るのが楽になる。そこの紐、持ってくれ」
紐には赤い印がついていた。 ゆうたは印の所に苗を押し込んだ。 二本目で長靴が泥に取られて、片足だけ靴下になった。 じいちゃんが大きい声で笑った。
一時間後、ゆうたは紐を見なくても、まっすぐ植えられるようになっていた。 泥は冷たくて、指の間を通る感じが気持ちよかった。
「どうだ、慣れたか」
「うん。ちょっと楽しい」
「棚田は手でやるから、平らな田んぼより生産が少ない。でも、うちの米はうまいぞ」
夕方、二人は長靴を洗って、小屋の壁に並べた。 じいちゃんが、ゆうたの足と長靴を見て言った。
「来年は、それ、ちょうどよくなるな」
