十四歩
桜台三丁目の集会所に、その夜、二十人ほどが集まった。 議題は一つだけだった。 新しいゴミ置き場をどこに作るか。 今の場所は道が狭くて、収集車が入るたびに自転車が倒れる。
柳瀬は前の机の横に立って、話し始めた。
「この一か月で、あらゆる場所を見ました。私の提案は、児童公園の入り口の横、あるいは、その向かいの壁ぎわです。においを心配される方が多いと思いますが、あそこは風が通るので、今よりましなはずです。カラスは、ネットを二重にすればどうにかなります。とりあえず三か月やってみて、だめならまた話し合いましょう」
反対の意見は出なかった。 およそ半分の人がうなずいて、議論は終わりかけた。
「ほかにご意見は」と柳瀬が言った。
いちばん後ろに座っていた冨田が、手を挙げた。
「すみません、反対です」と冨田は言った。 「あそこは、朝、子どもが集まる場所なんです」
冨田は集団登校の当番という立場で、毎朝その角に立っている。 一年生から六年生まで、三十人近くが七時四十分に並ぶ。 収集車が来るのは、たしか七時四十五分ごろだ。
「去年の秋、袋が破れて、道に生ゴミが出たことがありました」と冨田は続けた。 「その横に、子どもが二列で並んで待っていました」
部屋が静かになった。 柳瀬は自分の手元をしばらく見て、それから顔を上げた。
「さすがに、それは考えていませんでした」と柳瀬は言った。 「どんなふうに並ぶんですか」
「道の端に、二列です。日によって少しずれますが、五分は動きません」
「分かりました。この案はなしにしましょう。では、冨田さん、ほかにどこかありますか」
「……いえ。反対するために来ただけなので、そこまでは考えていません」
「実は、もう一つ候補がありました。二年前に出て、反対が多くて消えた場所です。冨田さんの家の前の、駐車場の角」
二年前にその案に反対したのは、冨田自身だった。
「子どもが通らない道は、あそこだけです」と柳瀬は言った。
冨田はしばらく黙っていた。 自分が出した理由で、自分の家の前が選ばれようとしている。 ここで反対すれば、今夜は何も決まらない。
「……納得はしました」と冨田は言った。 「ただ、一つだけ。ネットは二重にしてください」
「もちろんです」
賛成の手が、二十本近く上がった。
「おかげさまで、今日中に決まりました」と柳瀬は言った。
新しいゴミ置き場は、駐車場の角に決まった。 収集は火曜と金曜、朝八時二十分。
帰り道、冨田は自分の家の玄関の前で立ち止まって、角までの歩数を数えた。 十四歩だった。
