傘が五本
黒澤は机のあらゆる引き出しを探してから、押し入れのいちばん奥にある靴の箱を出した。 ふたを開けると、レシートがたっぷり入っている。 一年分ある。 毎年、十二月になるとこの箱がいっぱいになって、毎年、捨てようと思ったまま捨てない。
この頃、洗濯機が回るたびに変な音がする。 修理を頼むには買った日が分かるものが要ると言われたので、とりあえず日付だけを見て、右と左に分けていくことにした。
紙は思ったより薄くて、古いものはインクが消えかけていた。 輪ゴムが切れて、束が机の上でずれる。 およそ三百枚。 半分まで来ても、洗濯機のレシートはまだ出てこなかった。
かわりに、傘のレシートが出てきた。 四月十日。 駅前のコンビニの、六百九十円の傘。 たしか、改札を出たら降っていた日だ。
その少し下から、もう一枚出てきた。 六月二十二日。 同じ店、同じ値段。 九月にも一枚あった。 十一月にも一枚あった。 九月の分は、買ったことも忘れていた。
黒澤は、自分は傘をたまになくす人間だと思っていた。 時々、電車に置いてくる。 そういうイメージだった。 けれども並べてみると、たびたび買っている。 一年に四本。 買うタイミングは、決まって雨が降り始めたあとだ。
洗濯機のレシートは、最後まで出てこなかった。 あるいは店に記録が残っているかもしれない。 箱の底には、紙が一枚だけ残っていた。 二月十四日。 同じ店、同じ値段。 傘は、五本だった。
