もう五年
雨の午後、由美は紙袋を持って、駅前の靴修理の店に入った。 袋の中には、五年履いた茶色の靴が入っている。
「かかとが減って、底も少し破れているんです」と由美は言った。 「捨てるつもりだったんですけど」
主人は靴を手に取って、しばらく黙って見ていた。 窓の外では、雨が強くなっていた。
「これ、丁寧に作ってありますね」と主人は言った。 「かかとを替えて、底を直せば、まだ五年は履けますよ」
「五年も?」
「ええ。新しいのを買うより安いかもしれません」 主人は靴の底を指で押した。 「大事に履いてきた靴は、直せばまた役に立ちます。この靴は、よく手入れがしてありますね」
由美は何も言えなかった。 その靴は、初めての給料で買ったものだった。 雨の日は履かないようにして、帰ったら必ず拭いていた。
「一週間、預かってもいいですか」
「はい、お願いします」
一週間後、店に行くと、靴は棚の上に並んでいた。 かかとは新しく、底もしっかりしている。 履いてみると、五年前と同じように足に合った。
「また減ったら、持って来てください」と主人は笑った。 「あと二回は直せますから」
由美は店を出て、新しいかかとで雨の道を歩いた。
