相槌のはなし
リサが陽子の家に来て、二週間が過ぎた。 留学生を受け入れるのは陽子の家ではリサで三人目だが、リサは今までで一番よく話す子だった。
ただ、リサには困っていることが一つあった。 自分が話している途中で、陽子が何度も声を出すのだ。
その夜も、夕食の席でそうだった。 リサが学校のバスの話をしていると、陽子は「うん」「うん」「へえ」「そうなの」と、二、三秒に一度は何か言う。 リサはそのたびに、話が途中で止まってしまう。
食事のあと、リサは思い切って聞いてみた。
「陽子さん、一つ聞いてもいいですか。私の話、退屈でしょうか。いつも途中で……その、返事をされるので」
陽子は驚いた顔をして、それから笑った。
「ああ、あれね。あれは相槌っていうの」
日本語の会話では、聞いている人が「うん」「ええ」「なるほど」と短く返しながら聞く。 同時に頷くことも多い。 それは話を止めたいのではなく、反対に「ちゃんと聞いていますよ」という合図なのだと陽子は説明した。
だから、日本人と話しているときに相手が黙ってじっと聞いていると、話しているほうが不安になる。 聞いていないのかな、怒っているのかな、と思ってしまうこともあるらしい。 リサの国では静かに聞くのが礼儀だが、日本ではその静かさが冷たく見えることもあるようだ。
「じゃあ、私も言ったほうがいいんですね」
「そう。難しく考えなくていいの。うん、へえ、それで? それだけで十分よ」
次の日、リサは学校で試してみた。 友達が週末の話をしている間、「うん」「へえ」「それで?」と入れてみる。 すると友達の話は、前より長く、楽しそうになった。
その夜、リサは陽子の話に「うん」と返しながら、家族と一緒に夕飯を食べた。
