今日はお客さん
まりやは階段の下で立ち止まった。 前を歩く浅井さんは、サンダルだった。
「あの、質問してもいいですか。」
「かまいませんよ。」
「アナウンサーになりたくて、文学部を見に来ました。同級生はみんな東京の大学ですけど。……ここの人はみんな『学生』ですよね。私は今、生徒ですけど、四月から学生になるんですか。」
「なりますよ。」 浅井さんは指を三本立てた。 「小学校は児童、中学と高校は生徒、大学からは学生です。」
コンピュータの部屋を出てきたスーツの男の人に、浅井さんが頭を下げた。
「今の方は、先生ですか。」
「教授です。アジアの歴史の。『質問は多いほどいい』とおっしゃる先生です。隣の部屋は講師の先生です。」
「教授と講師で、呼び方は違うんですか。」
「どちらも『先生』です。」
まりやは少し考えた。 「じゃあ、今日の私は何ですか。生徒でも学生でもないですよね。」
浅井さんは足を止めた。 「今日はお客さんです。食堂のサンドイッチも、学生の値段で。」
まりやは笑った。 「じゃあ、お客さんの質問、もう一つだけいいですか。」
「かまいませんよ。」
