棚の上の重さ
台所の棚の上に、白い豚の形をした貯金箱が置いてある。 大輔が二年生のときに、駅前の百円の店で買ったものだ。 底にゴムの栓がついていて、回すと中の小銭が出てくる。 大輔がほしいのは、商店街の自転車屋に並んでいる青い中古の自転車だった。
自転車屋のおじさんは、店の前の自転車を三つのレベルに分けて置いていた。 手前が五千円、真ん中が一万二千円、奥が二万円。 青いのは真ん中にあった。 大輔は学校の帰りに、毎週その前で立ち止まった。
由美は買い物を頼むとき、必ず同じことを言った。 「おつりの小銭は、大輔の分でいいよ」
四月、米を五キロ。 おつりは八十円だった。 六月、雨の日にコインランドリーへ行って、帰りに三十円。 七月、麦茶のパックとスイカ。 スイカが安かった日は、百二十円になった。 九月、電球を二つ。 八十円。 十一月、しょうゆと油。 四十円。
一月には、お札が一枚入った。 親戚のおじさんがくれたお年玉の千円札だ。 大輔はそれを四つに折って、栓の穴から押し込んだ。 棚の上の豚は、少しずつ重くなった。 持ち上げるときに、両手がいるようになった。
由美も子どものころ、缶の貯金箱を持っていた。 中に何を入れる予定だったかは、もう覚えていない。 夏の終わりに、家の用事で全部使ってしまった。 豚を棚から下ろすたびに、由美はそのことを思い出した。
三月の日曜日、大輔は貯金箱を台所のテーブルに置いた。 由美と二人で栓を回すと、小銭が広がって、いくつかはテーブルの端まで転がった。 十円玉を十枚ずつ、百円玉を十枚ずつ並べる。 由美はチラシの裏に数字を書いていった。 数えるのに三十分かかった。 小銭が八千七百四十円、それと千円札が一枚。
一万二千円には足りない。 大輔は札と小銭をもう一度栓の穴から入れ直して、豚を棚に戻した。 「夏までには行く」と大輔は言った。 由美はチラシの裏の数字を見ていた。 四月からの十一か月分が、細かい字で並んでいる。
一般に、貯金箱は割って開けるものだ。 一度開けたら、それで終わる。 大輔の豚には、底にゴムの栓がついている。 だから何度でも数えて、また元に戻せる。 棚の上のその重さが、今のところ、大輔の一番の持ちものだった。
