一番小さい部屋
夜の十一時、ハンはやっと宿に着いた。 山の中の小さな旅館だった。 体が冷えて、喉も渇いていた。
ハンはフロントで言った。 「遅くなってすみません。チェックイン、お願いします」
「ハンさん、お待ちしていました」と谷口が言った。
「お寺に寄って写真を写していたら、最後のバスが行ってしまって」
「それは大変でしたね。夕飯は召し上がりましたか」
「駅で食べました。もう倒れそうです」
谷口は困った顔をした。 「お部屋のことなんですが、今日は団体のお客様が入って、うちは満室なんです」
「泊まれないんですか」
「いえ、空室が一つだけあります。ただ、山側の広い客室ではなくて、一番小さい部屋で。暖房の具合が悪くて、冷房しか動かないんです」
「寝られれば、それでいいです」とハンは言った。
谷口の妻が布団をもう一枚持ってきた。 谷口は鍵を渡した。 「あの部屋は、窓のすぐ側がお寺の壁なんです。朝は寝坊しても大丈夫ですよ」
ハンは部屋に入って、窓を開けた。 さっき門が閉まっていた寺が、すぐ目の前にあった。
ハンはカメラを窓の側に置いた。 「明日は寝坊しません」
