たいてい二番目の建物
こうきが引っ越したのは、駅から十五分の団地だった。 A棟からE棟まで、五つの建物が同じ形で並んでいる。 色も同じ、階段の位置も同じ、入り口の自転車置き場まで同じだ。 こうきの部屋は、D棟の四〇二号室である。
最初の失敗は、引っ越しの三日目だった。 四階まで上がって、鍵を差した。 回らない。 もう一度差した。 やっぱり回らない。 表札を見ると、知らない名字が書いてあった。 C棟だった。 ちょうど下から人が上がってきたので、こうきは急いで表札を見るふりをして、そのまま階段を降りた。
そこでこうきは考えた。 目印を作ればいい。 D棟の前には赤い自転車が止まっていたので、「赤い自転車のある建物がうち」と覚えることにした。 うまくいったのは、四日間だけだった。 五日目、赤い自転車は消えていた。 こうきはその日、B棟の四階まで上がってしまった。
次の作戦は、入り口の花だった。 D棟の入り口には、白い花の鉢が置いてある。 今度こそ間違えない、とこうきは思った。 ところが二週間後、管理人が全部の棟に同じ鉢を置いた。 白い花は、五つになった。
一か月たったころ、こうきは覚えるのをやめた。 代わりに、新しい方法を始めた。 とりあえず一番近い建物に入る。 四階まで上がる。 鍵を差す。 開かなければ、降りて隣の建物に行く。 開くまで、それを続ける。
これが、思ったよりずっと早かった。 覚えようとしていたときは、毎回入り口の前で立ち止まって、建物の形を見比べて、三分ぐらい悩んでいた。 今は悩まない。 一番遅くても、四回目には家に着く。 階段を上る回数は増えたが、運動になると考えれば、悪くない。
こうきは今、この方法にかなり満足している。 それに、最近分かってきたことが一つある。 二番目に入った建物が、当たりのことが多い。
