赤い船(四)
明くる日、露子は窓によって、赤い船はいまごろどこを航海していようかと思っていますと、ちょうどそこへ一羽のつばめが、どこからともなく飛んできました。
露子は、つばめに向かって、
「おまえは、どこからきたの。」
と聞きますと、つばめは、かわいらしいくびをかしげて、露子をじっと見ていましたが、
「私は、南の方の海を渡って、はるばると飛んできました。」
と答えました。
「そんなら、太平洋を越えてきたの?」
と、露子の顔には覚えず笑みがあふれたのであります。
つばめは、 「それは幾日となく、太平洋の波の上を飛んできました。」 と答えました。
「そんなら、おまえは船を見なくて? ……」
と、露子は聞きました。
すると、つばめは、 「それは、毎日毎日幾そうとなく船を見ました。あなたのお聞きになります船は、どんな船ですか。」 と問い返しました。
露子はつばめに、その船は赤い筋の入った船で、三本の高いほばしらがあることから、自分の見た記憶のままを、いちいち語り聞かせたのであります。
すると、つばめは、またくびをかしげて、この話を聞いていましたが、 「その船なら、私はよく知っています。私が長い旅に疲れて、暮れ方、翼を休めるため、海の上に止まる船のほばしらを探していましたとき、ちょうどその赤い船が、波を上げて太平洋を航海していましたから、さっそく、その船のほばしらに止まりました。 ほんとうにその晩はいいお月夜で、青い波の上が輝きわたって、空は昼間のように明るくて、静かでありました。 そして、その赤い船の甲板では、いい音楽の声がして、人々が楽しく打ち群れているのが見えました。」
と語り聞かして、つばめは、またどこへか飛び去ってしまいました。
露子は、いまごろはその船は、どこを航海しているだろうかと考えながら、しばしつばめのゆくえを見守りました。
