そこだけ手書き
室町:西脇さん、変なこと聞くけどさ、昔、お見合いってした?
西脇:したよ。三十四の時に一回だけ。駅前のホテルの二階のラウンジで。
室町:……そこ、コーヒーが妙に薄くない?
西脇:薄い。しかも、出てきたケーキがなぜかしょっぱかった。
室町:やっぱり同じ店だ。俺はたしか、四年ぐらい前。
西脇:紹介してくれたの、月に一回お茶会をやってる人?
室町:そう。あのお茶会に来たグループの中から、勝手に選ばれるんだよ。
西脇:私もそこで選ばれた。当日は三十分前に来なさいって言われて。
室町:言われた。相手より先に座って待ってなさい、って。
西脇:しかも相手が三十分遅れて、こっちは一時間たっぷり待った。
室町:たぶん、時間もタイミングも、全部あの人の頭の中で決まってるんだよ。
西脇:室町さん、どんなふうに紹介された?
室町:よく笑う明るい人よ、って。それだけ。
西脇:……全く同じ。私も、向こうのことをそう聞かされた。
室町:何年もずれてるのに、やり方が一つも変わってないんだな。
西脇:変わらない。あの人の中の私のイメージ、たぶん二十年前で止まってる。
室町:俺の方は、あの後三か月だけ付き合って、静かに別れた。失恋っていうほどでもない。
西脇:うちは二回目のデートで終わり。映画の趣味が、見事にずれてた。
室町:さすがに二回目は断ってもよかったんじゃない?
西脇:一回で帰ったら、あの人が悲しむでしょ。
室町:それは分かる。……あの人、恋愛の話になると急に元気になるよね。
西脇:なる。会うたびに、恋人はできたのって聞かれる。もう十年、同じ質問。
室町:俺も毎年聞かれる。答えも毎年同じなのに。
西脇:とりあえず、まだです、って答えとく。そうすると必ず、次の人を考えとくからね、って。
室町:それ、今年の年賀状にも一行だけ書いてあった。次はきっと、って。
西脇:……うちにも来た。同じ字で、同じ一行。住所は印刷なのに、そこだけ手書き。
室町:あの人、まだ現役なんだ。
