案外、静かなもの
四階建ての古いビルだった。 エレベーターは三階と四階の間で、ごとん、と音を立てて止まった。 中には二人しかいない。 修一と、はじめて会う若い女性だ。
「止まった」と澄子が言った。「うそでしょ。止まりましたよね、これ」
修一は天井を見上げた。 階を示す数字が消えている。 故障のようだった。 彼は非常ボタンを押した。 しばらくして、管理会社の人の声が聞こえてきて、二十分ほどで着きますと言った。
「二十分」と澄子が言った。「空気、二十分ももちますか」
「もちますよ」と修一が答えた。
「電波も入らないんですけど」
「そうですね」
澄子は壁にもたれて、床に座った。 それから立って、また座った。 修一はドアの横に立ったまま、動かなかった。 焦っている人が一人もいない場所というのは、案外静かなものだ、と澄子は思った。 二十分は、二十五分になった。
やがて、上のほうで金属の音がして、床が少し揺れて、エレベーターはゆっくり下がりはじめた。 一階でドアが開いたとき、外の光がまぶしかった。
「すみません、私、ずっと騒いでしまって」と澄子が言った。「よく落ち着いていられましたね」
「いえ」と修一が言った。「怖くて、動けなかっただけです」
