苗字は景色でできている
日本には苗字が十万以上あると言われています。 韓国や中国と比べると、これは非常に多い数です。 そして、その多くに、田、山、川、谷、村、上、下といった漢字が入っています。 どうしてでしょうか。 理由は二つあります。
一つ目は、日本人の苗字が、思っているより新しいということです。
江戸時代まで、役所の書類に苗字を書くことができたのは、武士や一部の家だけでした。 ほかの人々にも、村の中や家の中で使う名前はありましたが、正式なものではありませんでした。 明治時代になって、政府はすべての国民に苗字を届けるように命じました。 税金を集めたり、兵士を集めたりするために、誰がどの家の人なのかをはっきりさせる必要があったからです。 こうして、日本人は全員が苗字を持つようになりました。 今から百五十年ほど前のことです。
二つ目は、そのとき何を苗字に選んだか、ということです。
急に決めなければならなくなったので、多くの人は、一番身近なものを選びました。 つまり、自分の家がある場所です。
田んぼの中に家があれば田中。 山のふもとなら山本。 川の上のほうに住んでいれば川上。 谷の入り口なら谷口。 大きい木の下なら木下。 村の役人が代わりに考えてあげた例も多かったと言われています。
ですから、日本人の苗字は、その家が百五十年前にどんな景色の中で暮らしていたかを教えてくれます。 苗字そのものは新しくても、その苗字が指している場所は、ずっと古いのです。
田中さんに会ったら、その先祖はたぶん、田んぼに囲まれた家に住んでいた人です。
