辞書には両方
月に一度の読書会は、駅前の図書館の会議室で開かれる。 その日は、参加者が順番に、気になった文を声に出して読むことになっていた。
年配の男性がページを開いた。
「ここです。『同じ説明が二か所にあって、内容がじゅうふくしている』……」
若い女性が小さく手を挙げた。
「あの、そこは『ちょうふく』だと思います」
男性は一度止まって、それから恥ずかしそうに笑った。
「そうでしたか。何十年も間違えて覚えていたようです」
みんなも笑った。 ところが、隣に座っていた人が携帯を見ながら言った。
「あ、辞書には『じゅうふく』も出てますよ。今はどちらでもいいって」
会議室が静かになった。 訂正した女性が、今度は自分の顔を押さえてしまった。
「……すみません。私も読み方を調べておきます」
