郵便受けの前で
夕方、郵便受けの前で、石井さんが岡本さんを呼び止めた。 「岡本さん、これ、うちに入っていました。」
「ああ、すみません」と岡本さんは受け取った。 「兄からです。毎年、雪の写真ばかり送ってくるんですよ。」
「お兄さん、北海道ですか。」 石井さんは笑った。 「うちの主人も、生まれは札幌なんです。」
「ご主人、北海道の方でしたか。家内が一度行きたいと言っていましてね。」
「じゃあ、ぜひ奥さんと。夏がいいですよ。」 石井さんは少し考えた。 「お子さんは、もう大きいでしょう。」
「息子は今年、大学を出ました。まだ家にいますけどね。」
「うちの息子は、まだ高校生です。毎日部活ばかりで、顔も見ません。」
岡本さんは時計を見た。 「あ、私、これから髪を切りに行くんです。駅前の床屋、いつも混んでいて。」
「駅前の……」 石井さんは口を押さえた。 「あそこ、兄がやっているんです。」
「え、お兄さんが。」
「ええ。十年、岡本さんの頭を切っていたのは、私の兄です。」
岡本さんは自分の頭に手を当てた。 「じゃあ今日は、お兄さんに少しきれいにしてもらいます。」
