印鑑が残る場所
会社では、書類に判子を押す場面が減った。 国も「脱はんこ」を進めていて、役所に出す紙の多くは、今ではサインだけで受け付けられる。 それでも、印鑑がなくなったと言う人はいない。
残っているのは、お金と住まいに関わる場面だ。 銀行で口座を作るとき、部屋の契約をするとき、車を買うとき。 こういう場所では、今も印鑑が使われている。
なぜだろうか。 サインは「その人が書いた」ことを示す。 一方、印鑑は「その印が役所や銀行に登録されている」ことを示す。 つまり、大事なのは印の形ではなく、同じ形がどこかに保管されているという事実のほうなのだ。
だから日本には、印鑑が三種類ある。 役所に登録した実印、銀行に届けた銀行印、そして荷物を受け取るときなどに使う認印。 三つを同じ物にしてはいけない、と親から言われた人も多いようだ。
初めて実印を作る人は、はんこ屋で名前を彫ってもらい、その印を持って役所へ行く。 窓口で登録すると、小さなカードが渡される。 このカードがないと、印鑑証明書は出してもらえない。 登録が必要なので、買ったその日から実印として使えるわけではない。 印鑑そのものより、この手続きのほうが重いのである。
若い世代の意識は、少しずつ変わってきている。 サインで済む銀行を選ぶ人もいるし、印鑑を一本も持っていない学生もいる。 ただ、就職や引っ越しが決まると、多くの人は結局はんこ屋へ行く。 この慣習が続いているのは、皆が信じているからというより、印鑑がないと困る日が、まだ確かにあるからだろう。
