来年も四時に
夏の朝、四時に祖父に起こされた。 外はまだ暗くて、目を開けるのが大変だった。
「けんじ、竿を持ってくれ」
川に着いたとき、空はやっと少し青くなっていた。 祖父は大きい石の上に座って、糸を投げた。 私も同じようにした。 水の音のほかには、何も聞こえない。
祖父はこの川で六十年釣りをしている。 経験が長いから、魚がいる場所が分かるらしい。 それでも、その朝は一時間たっても何も釣れなかった。 祖父と釣りに来たことは何度もあるが、こんなに静かな朝は初めてだった。
朝日が山から出て、川の小さな波が光ったとき、祖父の竿が急に曲がった。 私は網を持って走った。
上がったのは、手のひらぐらいの魚だった。 祖父はそれをしばらく見てから、川に返してしまった。
「返すの。せっかく釣れたのに」と私は言った。
「うん。また来年、けんじと来るから」
祖父は来年もここに来るつもりなのだ。 それが分かって、私はもう眠くなくなった。
「じゃあ、来年も四時に起こしてね」
祖父は何も言わないで、また糸を投げた。 川の音だけが続いていた。
