ふたを回す
朝の海は静かだった。 タコは岩の下から出て、においのする穴に入った。 中にカニがいる。 しかしそれは漁師の罠だった。
急に体が上に持ち上がった。 水が消えて、明るい光が目を刺した。 船の上だ。 漁師の大きな手がタコを掴んで、白い箱の中に入れた。 ふたが閉まる音がした。
箱の中は狭くて、水は足首ほどしかない。 タコはまずふたを上に押した。 八本の足で全部の力を使ったが、ふたは一ミリも動かない。 ふたはねじで閉められていたのだ。
次に、箱のすみの小さい穴に体を入れようとした。 タコの体には骨がない。 頭さえ通れば、どこでも出られる。 しかし穴は指ほどの太さしかなかった。 ここも駄目だ。
外では漁師が網を直している。 タコは静かに足を伸ばして、ふたの内側をさわった。 ざらざらした線が、丸く続いている。 この線に沿って回せばいいのだと分かった。
四本の足で箱の壁を強く掴み、残りの四本をふたに巻き付けた。 壁を利用して、体をゆっくり回す。 かたい。 もう一度。 三度目で、上から小さい音がした。 すきまから海のにおいが入ってきた。
漁師が振り返ったとき、白い箱のふたは床に落ちていた。 船のふちには、濡れた足の跡が八本残っている。 その跡は、海のほうへ続いていた。
