栗きんとんは三倍
あかり:おばあちゃん、この黒い豆、何?
祖母:黒豆。「まめに働けますように」っていう意味なの。
あかり:食べたことはあるけど、意味は知らなかった。
祖母:おせちは全部、縁起のいい意味があるのよ。この海老は、腰が曲がるまで長生きしますように。昆布は「よろこぶ」。
父:数の子は?
祖母:子どもがたくさん生まれますように。あなた、毎年聞いてるでしょう。
父:忘れた。……ていうか俺、子どもの頃は栗きんとんしか食べなかったなあ。
あかり:分かる。私も甘いのしか食べない。
祖母:おじいちゃんもそうだったわ。栗きんとんだけ、先になくなるの。
父:えっ、そうなの。
祖母:だから毎年、栗きんとんだけ多めに作ってるのよ。
あかり:じゃあ、今年も足りなくなるかもしれないね。
祖母:今年は足りるはずよ。三倍作ったから。
父:三倍?
祖母:あかりも食べるでしょう。……あかり、重箱に詰めるところ、ちゃんと見ておきなさい。来年は自分で作るつもりで。
あかり:えっ、私が?無理だよ。
祖母:おばあちゃんも、二十歳の時に初めて一人で作ったのよ。
