いつも欲しい物がある店
まさとの店は、駅から歩いて七分、商店街の端にある。 金物屋という看板だが、実際に売れるのは電池と蛍光灯と、それから細かいねじだ。
ゆかりが最初に来たのは、三年前の冬だった。 網戸の下のほうに付ける、小さい留め具が欲しいと言った。 店の奥の引き出しを二十分探して、まさとはやっと一つ見つけた。 値段は四十円だった。
その時、ゆかりは店を出るときに、二度頭を下げた。 四十円の物のためにそこまでする客は、この商店街にはあまりいない。
それから、ゆかりは月に二度くらい来るようになった。 だいたい火曜日の三時ごろ、買い物袋を提げて、仕事帰りではない歩き方で入ってくる。 買う物はいつも似ていた。 細いねじ、電球、ゴムのパッキン。 どれも古い家に住んでいる人が買う物だ。
まさとは、少しずつ店の中を変えた。 奥にあった小さいねじの箱を、入り口の近くの棚に移動した。 ゆかりが二度聞いた大きさのパッキンは、問屋に頼んで、いつも二つ置くようにした。 冬になる前には、去年ゆかりが探していた形の湯たんぽの栓を、先に仕入れておいた。 そのどれも、ゆかりに言ったことはない。
ゆかりはそれに気づかない。 店が変わったとも、まさとが何かしたとも思っていない。 三時ごろ来て、棚の前に立って、「あ、あった」と言う。 そして毎回、同じことを言う。
「ここ、いつも欲しい物があるんですよね」
「そうですねえ」とまさとは答える。 それ以上のことは言わない。
商店街の靴屋も魚屋も、去年シャッターを下ろした。 まさとの店はまだ開いている。
ゆかりが帰ると、まさとは棚の空いたところに、同じ物をもう一つ並べる。
