短冊の願い
七月七日が近づくと、町のあちこちに笹の葉が飾られる。 さくらさんも、息子のたけると一緒に、近所のスーパーの前に置かれた大きな笹を見に来た。
笹には、色とりどりの短冊が、たくさん結ばれていた。
「ねえ、あれ何?」と、たけるが聞いた。
「短冊っていうのよ。願い事を書いて、笹に結ぶの。七夕の日に、お星さまにお願いするのよ」と、さくらさんが答えた。
たけるは、店の人からもらった短冊を手に取って、しばらく考えている。 何を書こうか、迷っているようだ。
「お母さんは、子供のころ、何て書いたの?」
「そうねえ。『ケーキ屋さんになりたい』って書いた気がするわ」
「へえ。じゃあ、なったの?」
さくらさんは、笑った。
「ならなかったわ。今は、銀行で働いてるもの」
たけるは、少し考えてから、短冊にゆっくりと字を書いた。 そして、背伸びをして、笹の高いところに結んだ。
さくらさんが、そっとのぞいてみると、驚いたことに、そこに書かれていたのは、たける自身の願い事ではなかった。
「お母さんが、ずっと元気でいますように」
そう書いてあったのだ。 目の奥が、少し熱くなった。
星に願いが届くかどうかは、誰にも知れない。 でも、この願いだけは、きっと届いてほしい。 さくらさんは、そっと、そう思った。
