野ばら(三)
青年は最初将棋の歩み方を知りませんでした。 けれど老人について、それを教わりましてから、このごろはのどかな昼ごろには、二人は毎日向かい合って将棋を差していました。
初めのうちは、老人のほうがずっと強くて、駒を落として差していましたが、しまいにはあたりまえに差して、老人が負かされることもありました。
この青年も、老人も、いたっていい人々でありました。 二人とも正直で、しんせつでありました。 二人はいっしょうけんめいで、将棋盤の上で争っても、心は打ち解けていました。
「やあ、これは俺の負けかいな。こう逃げつづけでは苦しくてかなわない。ほんとうの戦争だったら、どんなだかしれん。」と、老人はいって、大きな口を開けて笑いました。
青年は、また勝ちみがあるのでうれしそうな顔つきをして、いっしょうけんめいに目を輝かしながら、相手の王さまを追っていました。
小鳥はこずえの上で、おもしろそうに唄っていました。 白いばらの花からは、よい香りを送ってきました。
