面接の帰り道
面接の三十分前に、会社の一階のロビーに着いた。 エレベーターの前でネクタイを直しておく。 昨日の夜、答えを全部紙に書いておいたのに、頭の中はもう真っ白だった。
受付で名前を言うと、七階の面接室に案内された。 中では、面接官が一人だけ座って待っていた。
「中村と申します。本日はお越しいただき、ありがとうございます。どうぞおかけください」
椅子を引くとき、大きな音を立ててしまった。 中村さんは何も言わなかったが、手元の紙に何か書いた。 緊張のせいで、もう評価が下がったようだ、と思った。
「では、これまでのご経験について聞かせていただけますか」
「はい。前の会社で、三年間、店の商品を管理する仕事をしていました。あの、えっと……お客さんと話す機会も、多かったです」
もっと上手に話せるはずだった。 用意しておいた言葉が、順番どおりに出てこない。 それでも中村さんは、うなずきながら最後まで聞いてくれた。
「うちの仕事は、毎日同じことの繰り返しになる日もあります。それでも大丈夫ですか」
「はい。前の仕事も、そうでしたので。同じことを続けるのは、得意なほうです」
そう答えたとき、中村さんが初めて少し笑ったように見えた。
帰り道、駅までの坂を下りながら考えた。 結果はまだ分からない。 ただ、一つだけ分かったことがある。 あの人が見ていたのは、上手な言葉ではなく、こちらの態度のほうだったみたいだ。
次に面接を受けることがあれば、答えを暗記しておくのはやめよう。 ゆっくりでいいから、自分の言葉で話せばいい。 そう決めたら、肩の力が少し抜けた。
