オフィスの冷蔵庫のルール
どこの会社にも、たいてい小さな冷蔵庫が一つある。 飲み物と、誰かの弁当と、いつからあるのか分からない調味料が入っている。 使い方のルールは、紙に書かれていないことが多い。 それでも、みんな同じように使っている。
一番大事なのは、名前を書くことだ。 ペットボトルでも、コンビニのおにぎりでも、自分の物には名前と日付を書いておかなければならない。 名前のない物は、だんだん「みんなの物」になっていく。
自由に食べてもいいと決まっている物もある。 旅行から帰った人が置いていくお菓子、ドアのところに立っている醤油やソース、忘年会で残ったジュース。 これらには名前がない。 名前をつけないことが、「どうぞ」という意味になっている。
場所にも、静かな決まりがある。 上の段は飲み物、下の段は弁当、ドアのポケットは共有の物。 誰が決めたわけでもないのに、新しく入った人も、二週間ぐらいで同じ場所に置くようになる。
「借りる」という習慣もある。 朝、コーヒー用の牛乳を少しだけ借りて、帰りに新しいのを買って返す。 返さない人は、次から借りにくくなる。 それだけのことだが、よく守られている。
そして、金曜日の夕方。 多くの会社では、この時間に冷蔵庫の中が片付けられる。 ドアに「金曜日に片付けます」と貼ってあることも多い。 共有の物は別にして、名前のない物、日付の古い物は、そのとき全部捨てられてしまう。
問題が起きるのは、誰かの弁当が消えたときだ。 おもしろいのは、その後で犯人を探す人が、ほとんどいないことである。 次の週から、みんなが急に名前を書き始める。 それで話は終わる。
つまり冷蔵庫のルールは、紙に書いてあるから守られているのではない。 毎週の金曜日と、時々起きる小さな事件によって、書かれないまま、毎回作り直されているのだ。
