松山鏡(一の三)
といいながら、背中の荷物を手伝って下ろしました。 娘はきっとこの中にいいおみやげが入っているのだろうと思って、にこにこしながら、おかあさんのお手伝いをして、荷物を奥まで運んで行きました。 そのあとから、おとうさんは脚絆のほこりをはたきながら、
「ずいぶん寂しかったろう。べつに変わったことはなかったか。」
といいいい奥へ通りました。
おとうさんはやっと座って、お茶を一杯のむ暇もないうちに、包みの中から細長い箱を出して、にこにこしながら、
「さあ、お約束のおみやげだよ。」
といって、娘に渡しました。 娘は急にとろけそうな顔になって、
「おとうさん、ありがとう。」
といいながら、箱をあけますと、中からかわいらしいお人形さんやおもちゃが、たんと出てきました。 娘はだいじそうにそれを抱えて、
「うれしい、うれしい。」
といって、はね回っていました。 するとおとうさんは、また一つ平たい箱を出して、
「これはお前のおみやげだ。」
といって、おかあさんに渡しました。 おかあさんも、
「おや、それはどうも。」
といいながら、開けてみますと、中には金でこしらえた、まるい平たいものが入っていました。
おかあさんはそれが何にするものだか分からないので、うらを返したり、おもてを見たり、ふしぎそうな顔ばかりしていますので、おとうさんは笑い出して、 「お前、それは鏡といって、都へ行かなければ無いものだよ。ほら、こうして見てごらん、顔がうつるから。」
といって、鏡のおもてをおかあさんの顔にさし向けました。
おかあさんはその時鏡の上にうつった自分の顔をしげしげとながめて、
「まあ、まあ。」
といっていました。
